ハイペロン核子散乱実験

 原子核を構成する根源的な力である陽子と中性子との間にはたらく核力は、陽子・中性子の構成要素であるクォークが関わる非常に複雑な力です。特に陽子・中性子が重なり合うような近い距離で大きな反発力(斥力)が生じる理由はいまだに解明されておらず、クォークが重要な役割を果たすとの指摘があります。そのため、ストレンジクォークを含んだハイペロンと、陽子との間にはたらく力を調べることで、核力におけるクォークの役割を明らかに出来ると期待されています。また、ストレンジクォークを含んだ粒子間にはたらく「新しい核力」はどのような特徴を持った力になるでしょうか?

 

核力研究の歴史

陽子、中性子を結びつける核力は宇宙の進化の中でも非常に重要な役割を果たしています。

この核力の研究の歴史を振り返ると、1935年に湯川博士が、「核力は陽子と中性子の間に中間子(パイ中間子)という仮想的な粒子を交換することで、引力がはたらく」という中間子交換理論から始まります。実際に核力がどのような引力や斥力の振る舞いを示すかという実験的な検証は、陽子サイクロトロンなどの加速器で加速された陽子と標的の陽子を散乱させる陽子陽子散乱実験の測定を通して行われました。ここに示すように遠距離では引力で、それが斥力になっていくということが分かっています。この核力理論と散乱実験の進展により、現在の核力の描像は確立しており、遠距離ではパイ中間子を交換することによる弱い引力、中間領域では複数のパイ中間子やもう少し重たい中間子を交換することによる強い引力、そして近距離では急激に斥力へと移り変わっていくことが知られています。この短距離での斥力がはたらくことは、現象としてそうなることは分かっていますが、どのような理由で斥力となっているのかは分かっていません。このような領域では核子どうしが重なり合うような近距離になっていますので、内部に含まれるクォークが重要な役割をはたすはずです。これを調べるには、陽子・中性子間の核力を調べるだけでは不十分です。新しいクォークを含んだ核力がどうなるか?これを調べる必要があります。

ストレンジクォークを含んだ陽子・中性子の仲間

陽子、中性子の仲間は、実は数多く存在します。陽子と中性子は、内部に3つのクォークをコアとして含んでいますが、それはクォークの中で最も軽い世代のアップクォークとダウンクォークで、陽子はアップクォークが2つとダウンクォークが1つ、中性子はアップクォークが1つでダウンクォークが2つで出来ています。この3つのクォークの中に、三番目に軽いストレンジクォークを含んだ粒子がハイペロンです。この絵で、横の軸にアップクォークとダウンクォークの数の差、下向きの軸にストレンジクォークの数で表すと、このような対称的な粒子達がグループをなします。ストレンジクォークを1つ含む粒子として、Λ粒子や、3つの電荷の異なる状態を持つΣ粒子、さらに2つのストレンジクォークを含むΞ粒子です。こらが、陽子・中性子の兄弟の粒子になります。これらの粒子の間にも核力に似た力がはたらくはずです。これらを調べることで、クォークのどのような役割が分かるでしょうか?

 

拡張された核力

ここでは、陽子、中性子間にはたらく核力と、ハイペロンと核子の間にはたらく力を比較しています。まず、ストレンジクォークを入れることで、新しい中間子の交換をすることが出来るようになりますし、逆に、今まで交換できていたパイ中間子の交換が禁止されるような場合も出てきます。また最も重要なのは、短距離での力がどう変わるか?新しいクォークを入れることによってどう変わるか?です。

そこでは、ほとんど引力がなくなって、斥力が非常に強い力や、核力に似ているけれども、斥力芯が弱くなっている力、そして、今までとは全く逆で、短距離では引力芯になるような力、と新しいクォークが作る相互作用は、短距離部分で非常に多彩な力を示すことが予想されています。
このように予言される相互作用をストレンジクォークを含んだ粒子間の力や原子核を用いて調べています。

 

ハイペロンと核子にはたらく力の解明に向けた2本柱

 

このハイペロンと核子にはたらく力の解明に向けた2つの柱が、ハイペロンと陽子の散乱の研究と、ハイペロンを含んだ原子核であるハイパー核の研究です。ハイペロンと陽子の散乱の測定では、2粒子間にはたらく力で散乱されますので、どの角度にどれだけ散乱されるかを調べることで2粒子間にはたらく力を調べることができます。またビームのエネルギーを変えることで、粒子間の距離の依存性などの詳細も調べることができます。まさに核力の研究の時に陽子と陽子の散乱実験で力の詳細が分かったのと同じ流れです。そしてハイパー核の研究では、原子核を構成する粒子間にはたらく力の重ね合わせとして、全体として感じる引力の強さがわかります。この研究では、ハイペロンと核子にはたらく力を平均化したときにどれくらい引力を感じるかということなどが分かります。

原子核の研究では、多粒子系の多様な現象が現れます。我々は、相互作用を理解した上で、これらの多様な現象を理解し、最終的には、中性子星まで拡張したいというのが大きな目標です。ですので、この2つの研究を有機的に連携して、研究をすることがハイペロンを含んだ物質を理解する上で重要になります。

ですが、現在までの研究のウエイトは圧倒的にハイパー核の研究に重点が置かれていました。J-PARCハドロン実験施設でも数多くの研究成果が出ていて、つい最近だと、ストレンジクォークを2つ含んだΞ粒子が原子核に束縛されたグザイハイパー核が発見され、Ξが原子核の中で引力を感じることが初めて分かりました。また、原子核の中にΛ粒子を含んだ原子核の研究も多くの成果が出ています。

一方で、ハイペロンと陽子の散乱実験は、非常に影が薄い存在でした。相互作用を調べる上では最も直接的で詳細が分かる手法でありますが、この散乱実験の測定は、1970年代からほとんど進展していません。研究をしたくても実験が難しくて出来なかった訳です。

そのため、ハイパー核の研究から力を調べることが、精力的に行われてきました。ですが、平均化された力として見えるので、散乱実験による直接的な解明が長い間待ち望まれていました。

どうしてハイペロンと陽子の散乱は難しいのか?

 

では、どうしてハイペロンと陽子の散乱は難しいのでしょうか?

その理由の1つ目はビームになるハイペロンを作るのが非常に大変であることです。ハイペロンのビームを作るには、まず陽子ビームを加速し、それを原子核の標的にあてて、パイ中間子などの2次ビームを作ります。その2次ビームを実験エリアまで導いて、もう一度、陽子などと反応させることでようやくハイペロンが生成されます。この間の粒子の数を見ていくと、初めはパルス当たり陽子の数が10^10個ぐらいあっても、パイ中間子で10^5個、ハイペロンは、0.01個とどんどん小さくなっていきます。陽子陽子散乱の場合にはこの10^10以上のビームを使って実験していた訳ですが、それに比べると10^12倍ぐらいそもそものビームの数が少ないことになります。散乱する数は、また4桁くらい数の少ないものになります。

もう一つの理由はハイペロンは生成しても数cm飛行するとすぐに崩壊してしまうからです。ストレンジクォークは安定ではありませんので、少し飛行した後に壊れてしまいます。ですので、このハイペロンと陽子の散乱実験は二重苦の実験で、ハイペロンの数自体が少ないのに、さらに作った途端にすぐに消えていく。このような稀にしか起こらない散乱の事象を捉えるために、ハイペロンと陽子が散乱する事象を可視化する装置で昔は測定していました。1970年代のCERNで行われた際は、水素泡箱と呼ばれる装置が用いられ、1990年代にKEKで行われた実験ではシンチレーションファイバーを組み上げた装置が用いられました。ですが、このような可視化する装置では、可視化にかかる時間が長く、他のビーム粒子が映り込んでしまうため、ビーム強度を下げる必要があり、散乱現象の数が非常に限られていました。

核子散乱とハイペロンと陽子の散乱の微分断面積(どの角度に散乱されやすいか)のデータの質の違いは明らかで、核子散乱は非常に精度良く測定されていますが、ハイペロンと陽子の散乱では、非常に精度の悪い測定しか出来ませんでした。そのため、ハイペロンと陽子の散乱実験は”出来ない実験”としてレッテルが貼られます。様々なハイパー核の研究の論文の出だしには、枕詞のように、「ハイペロンと核子の散乱は難しくて出来ないので、ハイパー核で相互作用を測るのである」という一文が数多く見られます。

ハイペロンと陽子の直接散乱で相互作用を調べる意義

 

このような誰もが諦めた実験ですが、それでもやはりちゃんとやらないといけない。このハイペロンと陽子の直接散乱で相互作用を調べる意義を、言葉だけですが、並べておきます。

まず、ハイペロンと核子の間に働く力を不確定性なく調べるには、やはり散乱実験が必要になります。多体系の原子核から2体の力を引き出す際に、どうしても不定性が生じてしまいます。

もう一つは、現実に則した2体のハイペロンと核子の間の力を決定することで、ハイパー核物理の土台を支えたいということです。通常の陽子、中性子だけでてきている原子核が、豊富な2体散乱のデータをもとに構築された現実的な核力を使って、多様な原子核の現象を解き明かすことをしています。同様にハイペロンと核子の相互作用を不定性なく調べることで、ハイパー核の多様な多体系としての側面をより正確に理解することができる。そのためには散乱データの質や種類を格段に向上させる必要があります。

J-PARCでの新しいハイペロンと陽子の散乱実験

 

そのようなモチベーションで、J-PARCで新しいハイペロンと陽子の散乱実験を行ったのが今回の実験のE40実験です。この実験では、Σと陽子の散乱からシグマ粒子と陽子にはたらく力の解明を目指しました。シグマはマイナスの電荷を持つΣ−という粒子とプラスの電荷を持つΣという粒子があります。これら2つのシグマ粒子を用いて、Σと陽子が散乱する測定とΣと陽子が散乱する測定を測定しました。実はΣ粒子は原子核に束縛されないことが分かっていたので、Σと陽子の相互作用は散乱実験でしか詳細が調べられないことも、初めにこの測定から開始した理由です。



新しい実験のコンセプトは、反応の可視化を行わないことでした。そのため、水素標的の中で、シグマ粒子の生成と、それに引き続き起きるΣと陽子の散乱を起こさせ、散乱で出てきた陽子と、Σが崩壊した際に出てきた粒子を捕まえると、散乱したかどうかが分かるようにしました。そのために、標的の周りをコンパクトな実験装置で取り囲むようなセットアップにしました。また可視化しなくてよくなったので、ハイペロンを作るのに、大量の中間子のビームを使えるようになりました。J-PARCでは、非常に大強度の中間子ビームが使用できることが、研究施設の特徴ですので、その特徴を生かせるような実験手法に変更したと言えます。実際に過去の実験の100~1000倍のビームを使うことが出来ました。

水素標的を取り囲んで、散乱事象を測定するための装置が、我々がCATCHと呼んでいる装置です。これは光るファイバー検出器と、その外側に粒子のエネルギーを測定するためのカロリメーターと呼ばれる装置からなります。このファイバーの検出器は、我々が1本ずつ張って作り上げたものになります。

 

J-PARCでハイペロンを大量に生成する

新しい実験を行ったJ-PARCでは大強度の陽子ビームを用いて、従来の100~1000倍のビームを用いることで、過去の実験の100倍のハイペロンビームを作り出すことができるようになりました。ですが、単にビームの強度が増やすだけで、実験が成功するわけではありません。次々にやってくるビームの中からどのビーム粒子が反応したかを選びとる速い目を持つ装置が必要です。我々は、大強度のビームがいつ、どこを通ったか、どのビームがシグマ粒子を作ったかなどを精度良く測定できるようにしました。またCATCHを含めて、全ての検出器が高速に応答するようなものになっています。

CATCHを用いた散乱現象の同定

実際にΣと陽子の散乱が測定された際の検出器のヒット情報を可視化したものです。中心にある水素標的の中で生成されたΣが、別の陽子と散乱して、陽子を蹴飛ばし、シグマはその後、すぐにπ中間子と陽子に崩壊します。この検出器ではこのような散乱している様子は実際にはわからないのですが、最後に出てきた陽子やパイ中間子の運動量とエネルギーの測定から、運動量とエネルギーの保存則をもとにどんな反応が起きたかを調べることが出来ます。Σp散乱が起こったと思って、エネルギー保存を調べると、実際に反応したものはエネルギー保存を満たしていることが分かります。

測定したΣ−粒子と陽子の散乱微分断面積

このように散乱した数を数えることで、最終的に下図のような散乱の微分断面積と呼ばれる量を精度良く求めることに成功しました。この黒い点が今回J-PARCで測定したデータで、赤の十字で示された点がKEKで過去に測定されたデータポイントとなります。4つののデータはシグマ粒子のエネルギーの違いを示しています。従来の精度を圧倒的に改善するような精度でデータを収集することができて、初めてのハイペロンと陽子の散乱実験の成功であったと言えると思います。ここでは、ハイペロンと陽子の相互作用を記述するいくつかの理論モデルが予想する値と一緒に示しています。青の線はクォークの効果をあらわに取り扱った理論計算で予想される角度分布で、黄色の線は、クォークの効果を有効的に入れたもので、これらの理論は比較的よくデータを再現しているのに対し、中間子の交換をメインで取り入れている理論計算では、この断面積の分布は説明出来ないのが分かります。

このようなことから、やはり、核力の中でクォークが重要な寄与をしていることが示唆されますが、どの理論も実験データとは厳密に一致はしていません。今回収集したデータを再現するように理論模型を改良することで、より現実に則した相互作用の理論と改善することが期待されています。

拡張された核力の解明に向けて

今回測定したΣ-と陽子の相互作用は、クォークの組み合わせで分類される力が混ざり合ったものになっています。様々なハイペロンと陽子にはたらく相互作用は、これらの力の混ざり合い方が異なるので、異なる種類のハイペロンと陽子にはたらく相互作用を明らかにすることで、これらの大元になる力の詳細が解明できるようになると思います。今回のE40という実験では、別の反応、例えばΣ-と陽子が反応してΛ粒子と中性子に変化する反応や、Σと陽子が散乱する測定の高精度の測定に成功しており、現在、結果をまとめているところになります。また次期計画では、Λ粒子と陽子の散乱実験を計画しています。この実験ではさらにΛのスピンを揃えた実験を行う予定です。これらの実験結果をもとに「現実に則した拡張した核力の理論」の構築を目指したいと考えています。

現実に則した拡張された核力の構築へ

 

現実に則した核力模型とは、核子核子散乱の様々な散乱データを矛盾なく説明し尽くす理論模型のことです。陽子・中性子間にはたらく核力ではすでに現実に則した核力の理論模型が構築されています。これは、核子核子の豊富な散乱データ(微分断面積やスピンに関してのデータ)が存在することが決定的に重要な役割を果たしています。このような現実に則した核力模型をもとに原子核を詳細に調べることで、新たな現象が明らかになってきています。

その一つが、3体核力と呼ばれる力です。現実的な核力模型で、多くの原子核の現象を説明できるようになったが、逆にどうしても2体の核力だけでは説明できない効果が様々なところで現れることも明らかになってきました。例えば、重陽子と陽子の核子が3つの系の散乱現象は、2体核力の重ね合わせでは再現できないことが分かりました。また原子核の質量(束縛エネルギー)も2体核力だけでは、説明できないことが分かりました。これらを解決するのは、3つの核子が存在するときに初めてはたらく3体核力という新しい力を入れることで全てを矛盾なく説明できることが分かってきました。巨大な原子核である中性子星を支えるにも3体核力が必要であることも分かってきました。

 

中性子星内部の物質構造

この巨大な原子核である中性子星の内部の物質層は、まさに未知のものです。中性子星の表面には原子核がありますが、内部にいくにしたがって、ほとんど中性子だけの外核と呼ばれる領域(ここは原子核の密度の1~2倍程度と言われています)、そしてさらに星の中心部の内核では密度は原子核の5倍以上にも達すると言われています。このように高い密度では、量子力学の不確定性原理から、狭い領域に閉じ込められたフェルミ粒子(中性子)はエネルギーが増大することになります。中性子の運動エネルギーが177 MeV(これはΛ粒子と陽子の質量差)よりも大きくなると、その運動エネルギーを使って別の粒子に変化させた方がエネルギー的に安定になります。そのため、このような星の中心部では、Λなどのハイペロンが出現すると予想されています。さらに、もっと押しつぶされると、核子同士の区切りがわからなくなるクォーク物質になっているかもしれません。この中性子星のコアの領域は、ストレンジクォークを含む物質が安定に存在する可能性を含んだ未知の物質層といえます。

この中性子星に関しては、天体観測や重力波検出の精度の向上によって、中性子星の質量や半径などの星全体の巨視的な情報が分かるようになってきています。今後、重力波の検出の性能がさらに向上すると、実際に中性子星同士が衝突した後の重力波を検出できると星の硬さなどの情報も得られる日がやってくるかもしれません。

特に重要な観測のデータは太陽質量の2倍の質量を持つ中性子星が存在するということでした。2倍の太陽質量を持つ中性子星が作る重力はものすごく強いですので、ブラックホールにならずに中性子星であり続けうるためには、星がだいぶ硬くないといけません。どうやってこの重い中性子星を支えるのか?これが大問題になっています。

柔らかい豆腐を何個も重ねていくと、あるところで、自身の重みに耐えられなくなって、底の豆腐からグチャッと潰れて行きます。中性子星も、この豆腐と一緒で、自身の強い重力に対して潰れるのを防ぐ必要があります。重力に対抗する圧力を作るのは、粒子の運動エネルギーと粒子間の反発力です。ハイペロンがもしも出現すると、その分だけ元の中性子の運動エネルギーがなくなることに対応するので、ハイペロンが出現することで圧力が低下すると単純には考えられます。ですので、ハイペロンが出現するシナリオでは星の内部が豆腐のように柔らかくなって、太陽質量の1.4倍程度までしか支えられないとずっと考えられてきました。そのため、2倍の太陽質量の重い中性子星の発見は、この核物質の理解に決定的に足りないものがあることを示しています。それが、ハイペロンを含んだ3体力などの多粒子間に働く力と考えられています。

この極限密度の物質層の理解に向けて、原子核物理の知識を総動員して、チャレンジしています。このハイペロンの出現は、非常に単純な量子力学の帰結でもあります。このハイペロンの出現の有無を解明するには、ハイペロンと核子の力がどうなっているか?ハイペロン同士の力がどうなっているかをまずは明らかにしないといけません。我々の散乱実験から明らかにしていきたいと考えています。そして、このまさに星の中心部分の一欠片とも言えるハイパー核の研究も非常に重要です。特に、この高密度領域では、3つの粒子が集まることで付加的に発生する3体核力が非常に重要になってくると考えられます。当然、ハイペロンを含んだ3粒子系にも同様に強い斥力が存在すると予想されています。この強い斥力が存在することで、中性子がハイペロンに変化したとしても、重力に耐え得る力を生み出せると予想されています。ですので、このハイペロンを含んだ3体力を解明することが現在の喫緊の課題となっています。

 

ハイペロンを含んだ多粒子間力の解明へ

原子核の中には至る所に3体力が潜んでいたと言いました。この3体力発見の鍵は、現実に則した2核子間の核力模型が確立していること、それとともに原子核の精密な質量測定をこの核力模型に基づいた理論予想と比較できることで、これらの理論と実験の比較により3体力の効果が明らかになってきました。

ハイパー核においても同様にハイペロンを含んだ3体力が至る所に潜んでいるはずです。

ですが、残念ながら、現在はそれを見る目がまだありません。ハイパー核においても現実に則した拡張された核力の模型と、ハイパー核の精密な質量測定が必要です。まず、この現実に則した拡張核力の構築には、今後さらに蓄積するハイペロンと陽子の散乱データが必須になってきます。これらのデータをもとに理論模型をアップデートしていくことで、この現実的な拡張核力模型を構築していきたいと考えています。そしてハイパー核の質量を従来にない高い精度で測定することをJ-PARCで現在計画しています。2体力だけで計算したハイパー核の質量の理論予想と、測定の差からハイペロンを含んだ3体力を明らかにしていきたいと考えています。