電磁相互作用による中性K中間子生成実験

ストレンジネス生成機構解明の研究

ストレンジ・クォークは我々の通常の世界では安定に存在していません。 作り出す為には、何かの反応(エネルギー)からストレンジ・クォークと反ストレンジ・クォークとを対で作ることが必要です。 いろいろ方法がありますが、シンプルに作る方法は、光子を核子(陽子や中性子)に当てて、ストレンジネスを持ったメソンとバリオンを作る方法です。  

ストレンジ生成機構の解明のため、世界中で研究が行われてきました。 多くの実験は、光子と陽子の反応から電荷を持ったK中間子を測るという測定が容易な方法で行われています。 しかしこの方法だけでは、ストレンジネス生成機構は十分解明出来ません。 そこで我々が注目したのが、これまできちんと測定されていなかった


γ + n → K0 + Λ

反応です。 これは、反応の前後に電荷が関与していないという点でユニークです。 また、生成された、K0中間子とΛ粒子は、約10-10 秒のオーダーで他の粒子に崩壊します。


K0 → π+ + π-
Λ → π- + p

このことが測定を困難にするため、これまで研究がほとんど行われていなかったのです。 この状況を打破すべく、我々はその測定の為の専用の検出器を製作・設置し、実験を行っています。



我々は、東北大学先端量子ビーム科学研究センター (RARiS)で実験を行っています。 ここには、1.3 GeV(13億電子ボルト)のエネルギーの電子ビームを作れるブースター・リング と呼ばれる加速器があり、これを利用し電子ビームから γ線ビームを作ることにより実験を行っています。


BM4 beam line
γ線と中性子の相互作用
NKS2

現在の中性K中間子スペクトロメータは二世代目で 、NKS2 = Neutral Kaon Spectrometer 2 と名付けられています。 NKS2実験において、我々は全ての検出器を新たに設計し、製作・建設を行いました。 左の写真はNKS2をビーム流から見た時のものです。

荷電粒子の運動量を正確に測定するための要が、飛跡検出器です。 右の写真はその一つである円筒型ドリフト・チェンバーで、大きさは、高さ 63 cm、直径 160 cm となっています。 フラッシュに反射しているのは、シグナル検出用のワイヤーです。この検出器により、荷電粒子の軌跡は200から300ミクロンの精度で測定できます。

 

終状態相互作用を用いたΛ・中性子間力の測定


ハイペロン・核子間力の研究は原子核にΛ粒子を原子核に束縛させた、ラムダハイパー核の研究を中心として進んで来ました。近年、実験我々東北大グループが中心となって行った実験研究から得た 4ΛH (nnpΛから構成される)と 4ΛHe (nppΛ)の質量の違いが、理論モデルでは説明できないことが明らかになりました。
 これは我々がハイペロンを含むバリオン間力を完全に理解していないことを意味します。そのため、Λと陽子を散乱させ、二体間の直接測定実験がSPring-8で進行しており、J-PARCでもさらに発展させた研究が予定されています。
 Λと陽子、Λと中性子の間に働く力は、これまで殆ど同じだと考えられてきました。しかし、本当にそうか、実験で示す必要があります。我々は、γ線ビームと液体重水素標的を用い γ+dK++Λ+n 反応での終状態相互作用の効果が生成断面積に与える影響から、Λn間力を高統計で測る実験を進めています。
 この実験は、東北大学の先端量子ビーム科学研究センター(RARiS)の電子加速器を用いて生成されたγ線ビームとNKS2スペクトロメータを用います。このγ線のエネルギーは、この実験に最適なものであり、世界でもここでしか出来ない実験を展開します。

クォーク6つからなる粒子ダイバリオン

ハドロンは、クォーク3つからなるバリオン、もしくはクォークと反クォークからなるメソンがあります。量子色力学によるとクォーク6つ(ダイバリオン)、クォーク4つと反クォーク1つ(ペンタ・クォーク)、クォーク2つと反クォーク2つ(テトラ・クォーク)などの存在が許されます。これらは、エキゾティック・ハドロンと呼ばれています。ダイバリオンの中でクォークが、udsudsの組み合わせはHダイバリオンと呼ばれ、KEK-PS, J-PARCで探索が行われています。
 一方、udクォークからなる、陽子・中性子・デルタ粒子(Δ)から、2つの組み合わせからなるダイバリオンの探索が行われています。RARiSのFOREST実験グループが γ+dd00 反応から、D12と呼ばれるダイバリオンの存在を示唆する報告をしていいます(PLB 789 (2019) 413)。
 NKS2実験では、γ+dd+- 反応から探査を行いD12の存在を示唆する結果を得ました(外山裕一 博士論文 2022年)。検出器アップグレードを行うことで、より詳細な研究を推進します。